宅建士試験 営業保証金とは
皆様、こんにちは。勉強は順調に進んでいるでしょうか?先日は令和3年度宅建士試験が終了しましたね。出来は如何だったでしょうか?昨年同様となりますと合格率13%程度になるとなると、10月試験よりは点数が高くなってしまうかと予測されますが、38点以上獲得出来たかたはひとまず安心してお正月を迎えられるのではないかと思います。
35点前後の方たちはなんとも言えない精神状態で合格発表まで過ごすこととなるかと思いますが、あまり気にしても仕方ないと割り切って頂ければいいのではないかなと思います。まあ、私も過去3回なんとも言えない状態を過ごしたのでお気持ちはよく分かります。
それでは営業保証金についてですが、そもそも不動産はとても高価な買い物となります。ほとんどの人が一生のうちで一番高価な買い物になるのではないのでしょうか?そんな時に怪しい会社や財務状態がよろしくない会社と取引すると不幸ですよね?そういった時のために、しっかりと営業保証金を預けて消費者保護に努めてくださいよってのが保証金の内容となりますので、これを念頭に置いて勉強は始めていただければ分かりやすいかと思います。
■営業保証金とは
営業保証金とは、あらかじめ宅建業者が供託所へ供託しておく保証金を言い、一般消費者が宅建業者との取引で損害を受けた場合に弁済してもらうためのお金です。
供託とは、金銭や有価証券を供託所へ預けておくことを言い、いざというときに債務者(供託した者)に代わって供託所が権利者に財産等(供託された金銭等)を取得させて債務を消滅させる制度です。覚える必要はありませんが、供託所とは法務局やその支局などです。宅建業者は、免許権者(国土交通大臣または都道府県知事)に供託した旨の届出をしないと、すべての事務所で事業を開始することができません。
1「免許」を受け、2「供託」し、3「届け出て」、初めて宅建業務を行うことができます。この順番は要注意です。供託して届け出てから免許を受ける、免許を受けて供託をすれば業務を開始することができる、などのひっかけ問題がよく出題されます。
■営業保証金の供託
1.営業保証金の供託義務者
供託をする者は、宅建業者です。宅建業者の業務規制でも説明しますが、宅建業者は取引相手に対して供託所について説明することを要します。取引の相手方も宅建業者の場合は説明不要(近年の法改正事項)、供託金の額は説明不要(頻出問題)の2つは、今覚えておいて損はないでしょう。
2.営業保証金の供託場所
供託場所は、(他県の支店分も含めて)主たる事務所の最寄りの供託所です。
3.営業保証金の供託額
営業保証金の額は「主たる事務所で1,000万円」「従たる事務所で500万円」です。少し練習してみましょう。A県に本店と、B県およびC県に支店を有する宅建業者は・・A県の本店の最寄りの供託所に1,000+500×2=2,000万円を供託する、簡単ですね!
4.事務所の新設
宅建業者が事業開始後に事務所を新設した場合、新設した事務所1つにつき500万円ずつ、主たる事務所の最寄りの供託所に供託し、供託した旨を免許権者に届け出ます。A県に本店があり、D県に事務所を新設した場合、D県ではなくA県の本店の最寄りの供託所に追加の営業保証金を供託し、D県知事ではなく免許権者に届け出るという点に注意。また、支店を2つ新設し、1つを廃止する場合、1,000万円を供託して500万円を取り戻すなど面倒なことはせず、増加分の500万円を追加供託するだけで問題ありません。
5.営業保証金の供託方法
営業保証金は「金銭または一定の有価証券」によって供託します。ここで注意していただきたいのは、金銭と国債証券は額面通りで評価されるのですが、地方債証券は額面金額の90%、国土交通省令で定める有価証券は額面金額の80%でしか評価されないということです。
ここも少し練習しておきましょう。事務所が4つある宅建業者が供託すべき営業保証金は、2,500万円ですね(本店1,000万+支店3×500万)。このうち1,000万円を地方債証券で、残りを金銭で供託する場合、地方債証券は90%の900万円と評価されますので、残りの金銭は1,600万円が必要となります。
国債証券?国土交通省令で定める有価証券って何?というのはあまり気にしないでください。そのままの形で出題されると思います。また、手形・小切手・株券による供託は認められません。「小切手による供託は額面の80%の評価額となる」← 誤りとなります。
供託可能な有価証券 | 評価額 |
---|---|
国債 | 額面の100% |
地方債証券、政府保証債 | 額面の90% |
国土交通大臣が指定した社債券等 | 額面の80% |
6.営業保証金の供託を怠った場合
免許の日から3ヵ月以内に宅建業者より供託した旨の届出がない場合、免許権者は届出をすべき旨の「催告をしなければなりません」。そして催告から1ヵ月以内に再び宅建業者より供託した旨の届出がない場合、免許権者は「免許を取り消すことができます」。催告は義務で、免許の取消しは任意なので注意してください。尚、供託の届出をせずに事業を開始した者には6ヵ月以下の懲役または100万円以下の罰金もしくは両者の併科に処される可能性もあります。供託をしても届出をしなければ同様です。
7.保管替え
主たる事務所を移転し、営業保証金の供託先を変えることを保管替えといいます。金銭で供託している場合と、有価証券で供託している場合とで、その方法が異なります(と言いますか、正確には金銭を移転させることを「保管替え」と呼びます)。
金銭のみで供託 → 従前の供託所に対して、移転後の主たる事務所の最寄りの供託所への保管替えを請求する。
金銭+有価証券 or 有価証券のみで供託 → 移転後の主たる事務所の最寄りの供託所へ新たに供託する(下で説明しますが、従前の営業保証金は公告なしに取り戻せます)。
金銭のみで供託している場合は、従来の供託所に対して「新しい供託所にお金を移転して」と言うだけで、有価証券を含む場合は自ら新しい供託所に新たに供託して、後から従来の供託所に供託していた分を取り戻すイメージです。
金銭+有価証券で供託している場合、現金の分を保管替えし、有価証券の分は新たに供託するということはできません。これも覚えておいてください。また、少し細かいですが、単に供託済みの金銭を有価証券に、有価証券を金銭に差し替えることを「営業保証金の変換」といい、変換を行った場合は「供託書正本の写し」を「遅滞なく」免許権者に届け出なければなりません。
■営業保証金の還付
営業保証金から債権の弁済を受けることを「営業保証金の還付」と言います。還付を受ける者が、直接供託所に対して、供託物払渡請求書等の通知書を提出して行います。
1.還付を受けられる者
宅建業者と取引をし、その「宅建業に関する取引」について生じた債権を有する者(宅建業者を除く)に限られます。宅地建物購入者や、その媒介・代理の依頼者などですね。ここでは「取引」に当てはまらないケースが重要で、広告業者や内装業者、給料未払いの宅建業者の使用人などは含まれないということを覚えておいてください。
2.還付を受けられる額
還付額は「営業保証金の範囲内」に限られます。例え債権額が2,000万円だとしても、営業保証金の額が1,500万円ならば、残りの500万円は営業保証金からは還付されず、宅建業者の他の財産を探すことになります。
3.営業保証金の不足
営業保証金が還付され、供託すべき営業保証金額に不足が生じた場合、宅建業者は還付した額に相当する営業保証金を新たに供託しなければなりません。免許権者より不足の通知があった日から2週間以内に供託します。この期限を過ぎても供託しない宅建業者は、業務停止処分を受けることがあります(供託の届出をしなかった場合と異なり、こちらに罰金等の罰則はありません)。不足額を供託したら、供託からまた2週間以内に供託した旨を免許権者に届け出ます。
☆ 間違えやすい数字まとめ ☆
営業保証金でド忘れして間違える可能性があるのはここだけでしょう。
未供託=免許後「3ヵ月」以内に供託の届出がない場合、催告(必ず)して「1ヵ月」で取消し(任意)
供託金の不足=通知後「2週間」以内に供託し、供託後「2週間」以内に供託の届出を行う
■営業保証金の取戻し
営業保証金を供託しておく必要がなくなった宅建業者は、供託所に対して「営業保証金の取戻し」を請求することができます。
以下、営業保証金の取戻しができるケースです。
・ 免許を取り消された場合(死亡や破産など)
・ 免許を更新せず失効した場合
・ 一部の事務所を廃止した場合
・ 保管替えできずに二重供託となった場合
・ 保証協会の社員となった場合
原則として、上の3つは債権者に対して6ヵ月を下らない期間(=6ヶ月以上)を定めて権利を申し出る旨を公告し、その期間内に申し出がなかった場合でなければ取り戻すことができません(取戻し事由発生から10年を経過すれば公告不要)。つまり裏を返せば、宅建業者が廃業したり死亡等により免許が取り消されたとしても(=宅建業者が宅建業者でなくなったとしても)、当該宅建業者と取引をした者は、公告期間内は還付請求ができるということです。
これに対して、下の2つは公告なしに直ちに取り戻すことができます。上の保管替えでも触れましたが、有価証券で供託していたために保管替えではなく新たに供託した場合は、公告不要ですぐに取り戻せます(=二重供託)。保証協会につきましては次ページの「弁済業務保証金」でお話します。この2つに10年経過を加え、公告なしで取り戻せる「二重供託・保証協会・10年経過」の3つは必ず押さえておいてください。
宅建業者は、公告をしたときは遅滞なく免許権者に届け出なければなりません。公告をするために届け出るのではなく、事後報告です。簡単な宅建業法では、何とか間違えさせようと、こういったちょっとした混乱を誘う問題も多いので気をつけてください。
取戻し事由 | 公告 |
---|---|
免許取消処分を受けたとき | 必要 |
免許を更新せず有効期間が満了したとき | 必要 |
廃業等の届出による免許失効や一部の事務所廃止 | 必要 |
上記3つの事由発生後、10年が経過したとき | 不要 |
事務所移転で新たに営業保証金を供託したとき(二重供託) | 不要 |
保証協会の社員となったとき | 不要 |
■営業保証金の流れまとめ
1.宅建業者は、事業開始前に、本店最寄りの供託所に、営業保証金を供託し、免許権者に届け出る。
2.宅建業者と、宅建業者を除くお客さんが、宅建業に関する取引をして、損害が発生する。
3.お客さんが、宅建業者の本店最寄りの供託所に、還付請求を行う。
4.供託所が、お客さんに、還付を行う。
5.免許権者は、宅建業者に、不足額供託の通知を行う。
6.宅建業者は、不足の通知があった日から2週間以内に、供託所に、不足額を供託する。
7.宅建業者は、不足額を供託したら、2週間以内に、免許権者に届け出る。
以上、営業保証金について説明しました。営業保証金と弁済業務保証金との比較がまた少し紛らわしくなりますので、まずは営業保証金についてしっかりマスターし、通常版「弁済業務保証金」のまとめ表も参考にしながらしっかり押さえておいてください。では、最後に近年の過去問で出題傾向も掴んでおきましょう。
■近年の宅建本試験問題(言い回しなど、出題傾向をチェックしておきましょう)
宅建業法に規定する営業保証金に関する次の記述のうち、正しいものはどれか(2018-43)
1.宅建業者は、免許を受けた日から3月以内に営業保証金を供託した旨の届出を行わなかったことにより国土交通大臣又は都道府県知事の催告を受けた場合、当該催告が到達した日から1月以内に届出をしないときは、免許を取り消されることがある。
2.宅建業者に委託している家賃収納代行業務により生じた債権を有する者は、宅建業者が供託した営業保証金について、その債権の弁済を受けることができる。
3.宅建業者は、宅建業の開始後1週間以内に、供託物受入れの記載のある供託書の写しを添附して、営業保証金を供託した旨を免許を受けた国土交通大臣又は都道府県知事に届け出なければならない。
4.宅建業者は、新たに事務所を2か所増設するための営業保証金の供託について国債証券と地方債証券を充てる場合、地方債証券の額面金額が800万円であるときは、額面金額が200万円の国債証券が必要となる。
3ヵ月、1ヵ月、任意で取消しの1番が正解ですね。2番の家賃収納代行業務は宅建業に関する取引とは言えません。届け出る前に宅建業務を開始している3番も誤りです。地方債証券は90%の720万円となり、100%で評価される国債証券は280万円が必要となります。簡単ですね!
「人生に失敗がないと、人生を失敗する。」